在宅点描(初日)

時差通勤推奨といえど全員時差通勤したらそれはもう時差ではなくただただ全部ズレなんだよな、マスクをしていない人間には近づくなという癖に支給はしてくれないし、強い思想があってしてない訳じゃないんだよ。そんな気持ちが日に日に募り、ノイローゼ気味になっていたところでようやく「一週間後に全員在宅」の指示が出た。緊急事態宣言宣言。その一週間後が今日だった。

日記は読み返すことに楽しみがあって、それまではただ苦しいマラソンで、半年以上続いた試しがない。でも、読み返すことに意味があるなら、日記を付けるチャンスはまさに今なんじゃないか、と思った。ので、付けます。書を捨てず街へ出るな。終わりの見えないドキドキ在宅ライフ、始まり始まり〜〜パフ。

初日。

朝ごはんは土日に焼いたスコーン。外に出ないから天気予報を見る必要がない。

Zoom朝礼。普段おしゃれなスーツを着ている先輩がユルユルのスウェットを着ていてウケた。上司はずっとバーチャル背景にはしゃいでいて、朝礼は普通に家っぽいところにいたのに、昼のミーティングでは南国にいた。明日は打ち合わせの予定がない。もしかしたら宇宙に行っているかもしれない。

時間間隔が狂いそうだったので、会社でいつも流しているラジオを聴く。「桜の季節」が流れた。そうだったなあ。ノリにノリながら仕事をしていたら、ど近所の先輩から「お昼食べに行きませんか」のLINE。いや在宅やでウチら。

どうせスーパーに行きたかったので二つ返事で了承。が、三軒周って全部臨時休業。ようやく見つけた路地裏のボロボロの中華屋で酢豚定食と揚げ餃子。アナログテレビに無理やりギュッって潰された16:9のちちんぷいぷいの映像。突然まかないを食べ始めたお店のおばちゃんとおじさんが緊急事態宣言の話をしている。酢豚定食に冷奴がついている。中華料理の卵ときくらげって異常にウマい、という話をしていたら先輩が頼んだ野菜炒めに卵ときくらげがモリモリ入っていた。うらやましい。

食べ終わって縦に潰れたぷいぷいを見続けていたら、おばちゃんが箱のピノを「ひとつどうぞ〜」とくれた。箱のピノはアーモンド味しか食べない宗教。ピノのアーモンド味の公式ファンクラブがあるんですね。うまいなあ。売り方の話です。

社会の状況とは正反対に嘘みたいに穏やかな天気、近所に「あるなあ」と思っていたでかい桜の木がよく見たらびっくりするほどでかくて、「夜見るより倍くらいありませんか?」と言いながらしばらく眺めていた。

スーパーは乾麺売り場と冷凍食品売り場が壊滅的で、ラスイチの冷凍うどんを赤子のように抱きかかえて購入。冷凍うどんの数は安心の残機。あと動物カステラとチーズクラッカーを買う。「食べながら備蓄」のポップにエア目眩。

就業間近に携帯が鳴り、緊急事態宣言のニュースに伴い、仕事がいくつかぼぼんと吹き飛んだことを告げられた。
「だから、もう、明日は仕事してる風でええよ」上司から告げられる。

ああ、ああ。もうだめだあ。どうなっちゃうんだあ。
こんな状況でも経済活動が止まらないということ、仕事をする、という事実が持つ重みを感じ始めた矢先のこれ。仕事がないって、経済が回らないって、もうダメじゃんね。
とりあえず明日は出勤して、ちょっとだけ残った仕事をして、布団カバーを洗濯します。

夜は鮭の西京焼きを食べます。トリスを飲んでハワイに行こう。西京焼きを食べて最強になろう。終業。