幻聴にあらがう

最近自分の好きなもののことがよくわからなくなってしまった。
転職をして環境が変わって、自分に触れるものの一切ががらりと変わってしまったせいかもしれない。数ヶ月経つけど職場でずっと浮いている。「前職では何してたんですか?」みたいな定番会話も一切なく、職場の人とうまく馴染めずぬるぬる働いてぬるぬる体調を崩した。会社に席はあるけど座るべき人間は私ではないんだと思う。ある日駅で倒れて寝込んで、会社を休んだりしているうちに前までの自分の輪郭がぼやけてしまった。

環境の変化によって、知らず知らずのうちに「おしゃれなものを嗜まねば」「メジャーなものになびいちゃだめだ」みたいな強迫観念に駆られていたようで、それは自分にとって初めてのことだった。「個性的な女の子はこんな音楽聴かない」と歌うアーバンギャルドに傾倒していたし、自分が自分で好きだと感じたものを好きな自分が好きだった。
仕事を通して自分の存在意義がまったく信じられなくなって、この歳にして今更初めて自分が触れてきたものが「正しかったのか」というダサい観念に囚われるようになってしまって苦しい。

深夜ラジオが好きで悪いかよ、四つ打ち邦楽ロックまだ聴いてて悪いかよ、お笑い芸人好きで悪いかよ、人が殺される小説好きで悪いかよ、ミッフィー好きで悪いかよ。大体人の趣味を笑うなよ。趣味は人生だろうがよ。

ここ一年は日記を書くことに専念していた。日記はその日に起きたことを書くもので、行動記録みたいなものだと思っている(だから私の日記は読み物としてあまり面白くない)。
日記を書くのは楽しいけど、そればかりに向き合っていると、記録している日からはみ出ている無数の事柄のことを忘れてしまう。たまに、思いがけず宇多田ヒカルを聴いて、幼稚園のとき父の車に置かれていたカセットテープ(宇多田ヒカルを入れていた)がとても綺麗な青色だったことを思い出したりはするけれど。それも結局受動的なものでしかない。

もっと好きなものの話を、好きなようにしないと死ぬなと思った。
馬鹿にされたら、される前に、書いて抗いたい。まだ死にたくない。