大通りを渡れない

 私の家の近くには、とても広い二車線の大通りがある。車屋さんとか、ファミレスとか、スーパーとか、そういうものがちまちまと並んでいる、郊外によくある大通り。住宅街と駅の間をずば、と通っているので、大人も子供も、電車に乗るためにはその大通りを越える必要がある。
 しかしながら、大通りというものは横断歩道が全然ないですね。あっても、全然青にならない。すぐ渡れるか、目の前で赤になるかが電車に間に合うかの分かれ目になるくらい(もちろん、個人の時間を管理する能力に依るところも大きい)。そして、大通りの信号特有の「車が全然通っていないのに歩行者信号は赤」という、暗くて深い穴のような無の時間。私はあれが本当に嫌いだ。厳密に言うと、その時間に合わせて動く人の姿を見るのが嫌だ。あの時間の中にいるあいだ、私はいかに自分が「人生下手」なのかをじわじわと噛み締めている。

 信号無視、するの難しくないですか。大通りでも、車が通っていないとひょいひょい横断しちゃう人がわりといるので驚く。というか、ちょっとでも車が通らないとエイッと走って横断しちゃう人が多い。通勤時間帯だと尚更だ。私はそれをいつも、ヒヤヒヤしながらそれを見守っている。うわ、轢かれるよ。やめてよ目の前で。え、**高(進学校)の子も渡っちゃうんだ。内申に響かない? などなど、一人勝手にヒヤヒヤしながら。
 私はそういうことができない。横断歩道じゃないところで横断する、に限った話ではない。なんだかそういうちょっとした悪いことができない。校則を破るとか、授業をサボるとか、未成年飲酒(普通に法律違反だけど)とか。別に嫌味とかではなく、純粋に要領が悪い。初めてした自転車の二人乗りはお巡りさんに怒られて、それ以来していない。今のバイトを始めて、蛍の光が鳴りはじめてからもゆうゆうと買い物を続られる人がいることを知ってびっくりした。

 真面目すぎるよね、と言われる。でも、本当は真面目でいる以外の「良い人」でいる方法をよくわかっていないだけで結果的にそうなってるだけですよ。でも、ちょっと不真面目な人のほうが魅力的に見えることも知っている。「夏色」は二人乗りしてるけどいい曲だし、授業をサボってまで行こうとする場所って全部素敵だ。自分もそれができれば、もっと楽しい人生を送れるのだろうなあ、とぼんやり思う。
 物心着いた時からずっと歩いている大通り。まだ横断歩道以外のところから横断したことはない。なんとなく、なんとなくだけど、周りにつられて横断したら、私だけ車に轢かれる気がする。そして大通り沿いの病院に入院して、関係のない車の運転手さんに迷惑をかけ、それをずっと気に病んで死ぬまで生きるのだろう。
 けれど。もし渡り切ることができたら。私はもっと要領よく人生を生きられるようになるんだろうなあとも思う。今いる場所とは違う世界の人間になれるはず。授業をサボって、カラオケボックスに篭って、「夏色」を歌う人間に。大通りを渡れないようなところが私のダメなところだ。でも、良いところでもあると思う。思いたい。思わない?