北大路

北大路に行った。
少し前に寝ぼけて置いてけぼりにしてしまっていた傘が、北大路の落し物センターに行きついていたのだ。
北大路という街は、バスの行き先としては聞いたことがあったけれど行ったことのない街だった。ビブレがある。バイト先の支店がある。バスターミナルがあって、地下鉄の駅もある。ちょっとだけ都会なのかな、という感じ。土地勘がないから、とりあえず北大路行きのバスに乗ろうと205番に乗ったけど、雨のせいでバスはのろのろ運転で、四条ですでにバスで行ったことを後悔した。
バスは四条河原町であらかた人が降り、市役所前を出たくらいから道が空いてきた。河原町今出川を出て、糺ノ森へ。下鴨神社を抜けると、少しずつ都市から街になっていく。そこから北大路バスターミナルまでは、あっという間に感じられた。

バスターミナル。聞きなれない言葉で、それこそバスターミナルといえば北大路、といった印象しかなかった。きっとロータリーなのかな、なんて思いながら、ビブレの前で右折待ちをするバスでぼんやりしていたけれど、そんなことは全くなかった。

バスは右に曲がった瞬間に、建物にぐんぐん突っ込んで行って、地下に潜り始めた。オレンジ色のランプに照らされた暗い道を、何台ものバスとすれ違いながら下っていく。
まるでバスの工場みたいだった。いつもは街中を頑張って走っているバスが、無機質な地下の、ふるさとに帰っていくみたい。停留所に着くまでは一瞬だったけれど、白い蛍光灯の下でバスを待つ人々を見ると、人が乗るというよりも、バスが働くための場というような気がした。

赤のりば、青のりばという、ローカルなカテゴライズもとても格好良かった。何が基準なのかわからない(多分方角や通り)し、なんで赤と青なのかも分からないけど、それに合わせて人が黙って、でもきちんと並んでいて、私だけがこの街のしくみを分かっていないような感覚にびりびりした。

バイト先の支店が見たくてビブレにも行った。
自分がよく知っている制服を着た全く知らない人たちが同じ接客用語を駆使して知らない場所で働いている様子を見る瞬間は、いつもくらっとする。
店内はずっと君の名は。のサントラが流れていて、テレビではポケモンのアニメ映像が流れていた。店舗の前のベンチでは高校生がスマホ遊戯王をしていて、流行のかたまりみたいな場所だった。疲れる。

今日はずっと雨がさあさあ降っていて、北大路にも、北大路の人々にも、私にも静かな時間が流れているようだった。悩んでいたことのだいたいに「もういいや」って匙を投げきれたからそう見えたのかもしれない。

傘は何事もなかったかのように私のもとに帰ってきた。帰りは遅延をおそれて地下鉄で京都まで戻った。
オレンジ色のランプに照らされたバス、蛍光灯の下の無骨な地下鉄構内が頭の中でぐるぐるまわっている。

また北大路に行きたい。バスターミナルに。しずかなビブレに。でも、もう一度行っても今みたいな気持ちにはならないと思う。だから、これを書きました。少しずつ、気持ちに整理をつけられたらな。今日も生活しました。おやすみなさい。